藤沢 周平

蝉しぐれ

清流とゆたかな木立にかこまれた城下組屋敷。普請組跡とり牧文四郎は剣の修業に余念ない。淡い恋、友情、そして非運と忍苦。苛烈な運命に翻弄されつつ成長してゆく少年藩士の姿を、精気溢れる文章で描きだす待望久しい長篇傑作!

蝉しぐれ
蝉しぐれ藤沢 周平

文藝春秋 1988-05-01
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参考レビュー

日本人の美徳

この小説がこれほど読む人を魅きつけるのは、日本人が美徳としてきた、親子の絆、忠義、友情、忍耐、意志力、異性を慈しむ心、などがパーフェクトなストーリーの中にぎっしりと詰まり、これらがなかば意識と懐かしさをもって読み手の心をとらえるからだと思う。 この作品は、ご時世小説というエンタテインメントものとして一級品なのは無論の事、その枠を超えて、かつての日本人の美徳が記された教科書的な要素も感じる。 いつまでも読み継がれて望む作品だった。 美徳と言ってもご時世にそぐわないものももちろんあるのだろうが、いつのご時世になっても持ち続けたい、または受け継がれていくべき普遍のものもあるはずだ。 まだ藤沢周平作品を多くは知らないので、著者がどういった意図をもっていたのかはわからないが、失われつつある日本人の美徳の復権、そのような願いも作品に込められているのではないだろうか?藤沢周平の描くワールドワイドが、日本の過去の遺物になってしまわない事を願う。 大げさに言えば日本人としての誇示しのようなものとでも言おうか。 もちろん、藤沢周平の精緻で無意味のない、素敵記事があっての事なのだが。

大河小説と呼ぶべき藤沢文学の傑作

物語は名誉回復と"ふく"への想いを確かめるための文四郎の生き様を描いたものとも言える。 まさしく硬軟自在である。 ここで、聞こえる「蝉しぐれ」は読者に息子の頃の真夏の日を髣髴とさせる。 東北の小藩を舞台に、文四郎と言う若き藩士を中心に、青年達の友情と発展物語、藩の中の権力争い、剣の道、他にも藩の点描を大河が流れるように悠揚迫らぬ筆致で描き切った傑作。 その上、"ふく"が藩主の側室になり、"お福さま"となる。 そうかと思えば、逸平に誘われて行く色街の居酒屋の酌女や文四郎が村回りで会う農民なども活き活きと描かれている。 不遇の文四郎は剣の道に励み、遂には道場対抗の試合に出るようにまでなる。 藤沢文学の代表作と言っても良い。 あの日を思い出す「蝉しぐれ」でもあり、来し方行く末の長さを噛み締める「蝉しぐれ」であろう。 雨、風、田の様子など自然描写も物語に溶け込んでいる。 冒頭では三人は15才程度。 これをキッカケに藩の権力争いが再発し、文四郎は...。結末で壮年となった文四郎は再び「蝉しぐれ」を聞く。 ご時世小説と言う枠を超え、大河小説と呼ぶべき藤沢文学の傑作。 剣豪の道を歩む事になる文四郎の幼友達として、調子が良いだけに見えるが本当は充分に者の逸平、学問に秀でた予之助を配しているのも巧み。 藩の勢力争いのせいで文四郎の父が切腹、文四郎の家屋の禄も減って苦難の道を歩く文四郎。 冒頭で藩の地理がデリケートに描かれ、読者を自然に物語に引き込む。 なお、文四郎を慕う隣家の娘"ふく"が江戸に旅立つとき、会えなかった事を悔やみする文四郎。 この辺の対決シーンの迫力は凄い。 「秘剣村雨」などどういった技かワクワクする。 三人の友情物語が話をフォローする一本の柱である。