福永武彦

忘却の河

「忘却」。それは「死」と「眠り」の姉妹。また、冥府の河の名前で、死者はこの水を飲んで現世の記憶を忘れるという―。過去の事件に深くとらわれる中年 男、彼の長女、次女、病床にある妻、若い男、それぞれの独白。

愛の挫折とその不在に悩み、孤独な魂を抱えて救いを希求する彼らの葛藤を描いて、『草の花』 とともに読み継がれてきた傑作長編。

忘却の河 (新潮文庫)
忘却の河 (新潮文庫)福永 武彦

新潮社 1969-05-02
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参考レビュー

これはまちがいなく名作です

久し振りに、小説らしい小説を読んだ。物語はそこから始まるが、藤城が主人公と定まったわけではない。とりあえず今の恋人は大事にしたい。漂泊の魂と孤独な愛 というバトンが次の走者に手渡されるのである。

40年前が舞台になっているので少々古めかしいが、普遍的なテーマを扱っているから第一章を読み終える頃には違和感はなくなる。しかし我々はいずれは死んで忘却のかなたに去っていくのだ。人はなにを手がかりにして生きていけばよいのだろうか。

若かりし頃、自分の優柔不断が原因で自殺した恋人、自分より遙かに若い戦友の死に立ち会った体験、藤城は孤独な思いを抱えたまま年を重ねている。当時46歳の福永武彦は、このテーマに正面から取り組んで、登場するそれぞれの人物に答えを出している。いつか幸せになれるかもしれないし・・・』読み手は共感するけれど、そこまでで終わりである。それぞれの物語は、主人公の独白で構成されている。

今の若い人が書いた小説は、個人が持つ焦燥感についてはよく表現されていると思うが、なぜ焦燥感があるかの分析はしていない。『イライラするのよね、でも満たされるときもあるからそれはそれでいいんだと思う。連作長編である。人が生きるのは大変なことである。

静かに圧巻

書店では一冊も手にする事無く帰宅する事も少なくない。かつて、この作品をタイムリーで読んだ世代の為に、再び文庫本として世に出たのならば、初めて読んだ私も出版社の良心や美意識をちょっとばかり感じました。

家族それぞれの秘めた胸の内をもしそれぞれが知っていたならば、ここに出てくる家庭の様子も違っていたかも知れないのかな?けれども、多くを相手に語ることはないけれども、心の中での語りの部分、その深さに愛情を感じました。

帯には、『人生に二度読む本』とあった。ネット書店を通じて、気軽に手にしたこの一冊の余韻に浸っています。

空気を読めと実生活の中で言われても、何でよ~!と思ってしまいますが、逆に語らない、その部分を慮っていく事も大事なんだなと思いました。ベストセラーのリストを見ては読みたくないかも、の連続。