花村萬月

二進法の犬

家庭教師・鷲津兵輔が、生徒として引き受けることになった女子高生の倫子。彼女の父は、武闘派乾組組長・乾十郎だった。

鷲津は、乾組という組織、十郎の 「白か黒か」を徹底する生き様、そして倫子の凛とした存在に、次第に自分の所在を見いだしていく。

博打、抗争、性愛…激流のなか、鷲津が手にしたものは ―!全てのひとが心に抱える深い闇を重厚に切なく描く傑作巨編。

二進法の犬二進法の犬
花村 萬月

笑う山崎 (ノン・ポシェット) 皆月 (講談社文庫) 浄夜 (双葉文庫) セラフィムの夜 (小学館文庫) ワルツ(上) (角川文庫)

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参考レビュー

読むものの心象も投影する二進法的世界観

決して難しい話ではない。彼と一緒になって、歓喜躍動しそして恥じ入り落ち込む。私は、主人公と共に、自分自身の情けなく悲しい影絵におののいてしまった。その共鳴の中で、いつもは隠蔽している自分自身の赤裸々な姿を妙に素直に見出すことができる。

読後は、スッキリ爽やか。ガンガン読める。でも、おいしいラーメンを食べた時のようなジーンとした後味が残る。

情けなく腰砕けする彼やいぎたなく性に固執する彼にこそ共感する。組長・乾をはじめとするヤクザ達の二進法的世界観の痛烈な光が、主人公の鷲津だけでなく、読むものの心象を投影する。こんなに格好悪い主人公に同一化してストーリーに巻きこまれてしまったのは初めての経験だ。そして、その中で、自然と、いつもは正視できない自分自身の影と気持ち良く正対できる。

エンディングで彼と並んで坂をスキップしながら、その先に奈落を感じたとき、スーッと落下していくような快感すら感じた。物語の後半にかけて彼がまともになっていくような様子があるが、むしろ違和感を感じる。優れたエンターテーメントと思う。

最高の作品です。

とにかく萬月ファンでもそうでない人でもぜひ読んでいただきたい1冊です。鷲津と倫子の幼いが真っ直ぐな愛。そこに萬月特有の肩の抜けた読む楽しさの部分もあり、ただの暴力小説とは一線を画している所です。

人間て本当にわからないものですね。信念が弱い主人公に、鋼のような信念でもって全てを動かし自分をも動かす乾。相容れないような2人がPCによってお互いに融合していく。

眠り猫や山崎シリーズでも一貫している、自分が許したものに対する慈悲にも似た異常な程の愛情とそれ以外に向ける感情が欠落しているほどの冷徹。

私はこの作品が萬月の作品の中でも1番好きです。それが二進法というPC時代の絶対法則としてこの作品に息づいていると思います。