伊吹有喜

風待ちのひと

“心の風邪”で休職中の男と、家族を失った傷を抱える女。海辺の町で偶然出会った同い年のふたりは、39歳の夏を共に過ごすことに。人生の休息の季節と再 生へのみちのりを鮮やかに描いた、著者デビュー作。

『四十九日のレシピ』にも通じるあたたかな読後感に心が抱まれる物語。

([い]4-1)風待ちのひと (ポプラ文庫)
([い]4-1)風待ちのひと (ポプラ文庫)伊吹 有喜

ポプラ社 2011-04-06
売り上げランキング : 86742

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
([い]4-2)四十九日のレシピ (ポプラ文庫) ([い]4-3)なでし子物語 (ポプラ文庫) BAR追分 (ハルキ文庫) オムライス日和 BAR追分 (ハルキ文庫) ミッドナイト・バス (文春文庫) 情熱のナポリタン―BAR追分 (ハルキ文庫) ([ほ]3-1)月のうた (ポプラ文庫) 今はちょっと、ついてないだけ むすびや (双葉文庫) ([ほ]3-2)かなりや (ポプラ文庫 日本文学)

参考レビュー

風待ちの風景に入り込む

ちょっと疲れたエリート哲司と優しい手を持った喜美子の物語。この小説がいいと思えるということは、少しは自分も精神的に大人になっているのかな、と思える作品。心にほんのりくるけれど、主人公たちは最後力強く生きて行きます。

『風待ちの人』という作題、Keyとなるクラッシック、全てが淡々としていて素敵です。冒頭部分を読み始めたときは、喜美子が突飛な感じで疲れそうで「苦手な部類かも」と思ったのですが、文体が段々ゆったりして行きお仕着せではなく、泣かせようとしている訳でもなく、ただただ少しゆっくりと何かを色々な意味で整理していく哲司とそれを手伝う喜美子の様子が、本当に素敵でその素朴さがかなりお洒落でした。

喜美子、哲司、そしてその二人を取り巻く人々が魅力的かつリアリティ溢れていて生き生きしています。喜美子の素直さが物語を引っ張っていきますが、人間として女としての生々しさもさらっと描かれており、それがこの物語を余計リアルにそして正直にしていると思います。このラストが私は大好きです。

哲司さんの描写から哲司さんの香りや着ている服の肌触りまで伝わってくる作者の力量は素晴らしいと思います。また人物だけでなく、二人の物語が展開する家や町並みが目の前に広がっていきます。そして女性である私から見る哲司さんはとっても魅力的な男性。

生きることはこれほど厳しく、そして愛おしい

死や絶対の愛をのりこえられなくても、優しさでいきていきたい。風のにおいがするかのよう、海辺の潮のにおいが感じられ、美味しい料理のにおいが感じられてお腹がすき、都会のかわいた空気に包まれるように感じられ、自分がトキめき、自分がかなしみ、傷つけ傷つけられ孤独になり、そして慰められるという短い時間にともに人生をいきられるお話でした。海辺の町で、ふたりは出会った-。心にさわやかな風が吹きぬける、愛と再生の物語。

引き込まれるというより、物語のなかで自分という登場人物がいるかのように、とてもリアルに感じられるのです。一気に最後まで読んでしまいました。いい本というのはそういうものですよね。そんな思いに溢れさせてくれる、すがすがしい作品でした。若い頃にはどんな本でも最後まで読破出来たものでしたが、子育てしながら仕事しながら読む本は本当に面白いもの、自分のためになるものでないとなかなか最後まで一つの本を読み切ることはできませんでした。

「やさしい手を、さがしていた~心の風邪で休職中の男と家族を亡くした傷を抱える女。」ぜひぜひオススメの一冊です。

作者や登場人物が同世代ということもあり、本にでてくる一つ一つのこまかい背景、音楽、服、食べ物、はやりものなどすべてにこころくすぐられました!若い女性向きかなと思いましたが、父や母にも、かなりうえの世代の方にも絶賛でした!詳しいお話をしてしまってはもったいないのでオビのところだけ、、。そして、クラシックが久々に聞きたくなりました。しかも、この本は子供が寝てから読み始めて一気に最後まで読み切ってしまいました!冒頭の描写からラストまで、激しい展開はそれほどないのですが、ぐいぐい話に引き込まれます。生きるということはこれほどまでに厳しく苦しく、そして素敵で愛おしい。