井上靖

猟銃・闘牛

ひとりの男の十三年間にわたる不倫の恋を、妻・愛人・愛人の娘の三通の手紙によって浮彫りにした恋愛心理小説『猟銃』。

社運を賭した闘牛大会の実現に奔走 する中年の新聞記者の情熱と、その行動の裏側にひそむ孤独な心情を、敗戦直後の混乱した世相のなかに描く芥川賞受賞作の『闘牛』。

無名だった著者の名を一 躍高からしめた初期の代表作2編の他『比良のシャクナゲ』を収録。

猟銃・闘牛 (新潮文庫)猟銃・闘牛 (新潮文庫)
井上 靖

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参考レビュー

ドイツ人から見た日本人の感情

最後まで読んでみると、これは大人になってから読むモノだと実感しました。しかし細かい事や終わりも何一つ覚えていません。

ドイツで複数の友人が翻訳されているこの本の話を読んでいて、こりゃ読まなきゃ話しにならないということで…読み始めてすぐにこの小説をずいぶん若い時に読んだとを思い出しました。

言葉使いが古い事もあり日本人が日本語で読むと古さ感じるかもしれませんが、書かれている内容は今もドイツ人に日本人の感情についてうまく伝えられていると思います。美しい文章の小説を読んだと実感できる一冊です。

少年少女文学全集的な読み方では、この本の良さは理解できないでしょう。

すぐれた構成

冷たく黒光りする猟銃からイメージするものとは対照的に、ある男の不倫とそれを取り巻く女達の葛藤を、生々しく手紙という形で描いているのが、この作者特有の逆説的な遊び心なのか、非常に面白い。これら二編の作品の主人公達が、事後に迎えるのはそれぞれの虚脱感、宴の後のような白い河床であること。

いったいこの男は何のために自分宛の3通の手紙を、見ず知らずの詩人(作者)に送ったのか?彩子に死なれ、みどりとも別れ、姪の薔子にも愛想を尽かされた自分の人生を、白い河床などと衒うこの男の自恣は、われわれ凡人には計り知れないが、すぐれた詩人であるこの作者には格好の題材だったのだろう。

そして闘牛もそのとおりで、この土着的な泥臭さを放つ表題の作品が、じつは社会派サスペンスのような企業小説だとは誰も思いつくまい。

戦後の、なんとも得体の知れない、まだ熟成される前の日本の雰囲気がよく出ている。そしてその興行に交錯する様々な思惑。

いい構成に編まれていると思います。闘牛に社運を懸ける男。