伊坂幸太郎

マリアビートル

元殺し屋の「木村」は、幼い息子に重傷を負わせた相手に復讐するため、東京発盛岡行きの東北新幹線“はやて”に乗り込む。狡猾な中学生「王子」。腕利きの 二人組「蜜柑」&「檸檬」。ツキのない殺し屋「七尾」。

彼らもそれぞれの思惑のもとに同じ新幹線に乗り込み―物騒な奴らが再びやって来た。『グラ スホッパー』に続く、殺し屋たちの狂想曲。3年ぶりの書き下ろし長編。

マリアビートル (角川文庫)マリアビートル (角川文庫)
伊坂 幸太郎

グラスホッパー (角川文庫) バイバイ、ブラックバード (双葉文庫) オー!ファーザー (新潮文庫) 魔王 (講談社文庫) PK (講談社文庫)

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参考レビュー

どこかポップな殺し屋達がひしめく新幹線

超悪役・個性派キャラ・哲学・社会学・旧ロシア文学等々と実は内容盛りだくさんな割には、とても分かり易く描かれている本作は、前作を読んでいなくとも、手にとって見る価値ありです。

というのも、前回にまして、登場人物の個性はかなり強烈で、しかも伊坂さん作品史上もっとも憎たらしいと思われる人物が登場し、読者は彼にぶつけようのない「怒り」を抱きながら、それをすっきりさせたくて先へ先へとページを進ませてしまうことでしょう。

独特の世界観でファンの間でも好き嫌いがわかれたグラスホッパーの続編です。が、グラスホッパーを読んでいなくても、伊坂さんのファンでなくとも、読み手は作品中にちりばめられた「怒り」「遊び」「気づき」を通じて楽しめる印象です。

また、実際の描写が克明に思い浮かぶようなスローモーションでアクションを再現した描写や、おそらくわざと回収していない伏線の中盤でのばらまきも含めて、個人的には「遊び」が効いてて好きです。

設定は、東京から仙台までの新幹線車内で殺し屋たちがそれぞれの任務をこなそうとしていたら自然と絡み合うといったもので、登場人物の殺し屋達はマンガのキャラクターに近いものにすることでかなり軽快に、そしてポップなものに伊坂さんの手で仕上げてあると思います。

そして、作品序盤から、「人はどうして殺してはいけないのか」といった素朴な疑問に答えられない作品中の大人たちと一緒に、追い詰めれてしまった読み手に、最後の最後で「気付き」を与えてくれるものもこの作品の魅力だと思います。

ファンタジーなのだ

読後の印象が、深いとか、鮮やかとか、すっきりとか、そんなものは目指していないのかもしれない。伊坂幸太郎という人は、ファンタジー作家なのだな、と改めて思う。キャラクターがあって、名前のない人々。

登場人物の誰にも感情移入しがたい設定だ。これを読んでから、またグラスホッパーを読んで、また楽しめた。だから、現実的な教訓とか感動とかとは、根本的につながらないのだ。

ミステリなんて、どれもが非現実的な部分を多かれ少なかれ持っているのだけれども。記号としての人々が、非現実的な世界で今を生きているだけ。ただ、ただ、小説の世界を体験していくだけの楽しさ。

それなのに、こんなに面白い物語がここにある。