川上健一

翼はいつまでも

初恋と友情…少年と少女の永遠のひと夏。中学2年生の時に初めて聞いたビートルズで、さえない僕の人生は変わった。冒険の小旅行、憧れの少女との交流。ひと夏の思い出が蘇る。第17回坪田譲治賞受賞の清冽な青春小説。

翼はいつまでも (集英社文庫)翼はいつまでも (集英社文庫)
川上 健一

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参考レビュー

本当の青春小説

今の小中学生にはこのような大人の理不尽が無いからそれを壊して突き進もうというハングリー性がなくなったのかもしれませんが、とにかく先生たちの大人の都合に真正面から対峙するその姿に感動します。

これも恋愛に対して真正面からぶつかっていきます。そして第三章は30年後の同窓会です。

本書は大きく三章に分かれていますが、第一章では野球部の補欠がビートルズのプリーズプリーズミーを聞いて衝撃を受けるのと同時に勇気も得て、それからは野球のレギュラーを取ることはもちろん、いろいろなことに勇気を持って立ち向かうようになります。久しぶりに文句なく☆5つの本に出会えた感じがしました。

第二章は主に異性についてです。ここでも青春は続いています。ジワジワと感動してしまい、読み終えた後に青春時代同様に嬉しいような切ないような悲しいようなそんな何とも言えない感覚を覚えます。

筆者と同じような体験をしているわけではないのにまるで自分が田舎の中学生に戻ったような感覚になります。青春を描いた本や恋愛を描いた本はたくさんありますがここまで純粋できれいで温かい恋愛に思わず感動してしまいます。

当時は学校の先生に反抗することは考えられなかったのでしょうが、大人たちの理不尽に正面からぶつかっていきます。

まっすぐで気持ちの良い青春小説

主人公は野球部に所属している中学三年生。小説の舞台である青森県の十和田湖周辺の大自然も、少年が成長する上で大きな役割を果たします。成長小説としては、王道中の王道を行く作品ではないかと思います。

例えば、ヒロイン(主人公のクラスメート)を例に挙げますと、帰国子女で、飲酒運転のトラックによる追突事故で両親を亡くし、親戚の厄介者となって追いやられ、今は田舎で貧乏暮らし。

とてもまっすぐで気持ちの良い青春小説です。たぶんこの直球勝負さが、この作品のテーマや雰囲気と良くマッチしているからではないかと思います。

しかし音楽に関しては天才的な才能を持ち、後に世界的なピアニストになる、といった感じです。ただ、性格はとても純粋で元気いっぱい、子供らしい無鉄砲さも併せ持つ、可愛らしい魅力的な少年です。

内野の守備で、ゴロの捕球は得意なのにスローイングだけ極度に緊張してしまい、ファーストへは山なりのスローボールしか送球できない、という情けない一面を持つ少年です。

エンターテイメント性も申し分なく、とても楽しく読めました。この主人公の少年が、異性への興味や、父親や先生などの大人との関係で悩みつつも、野球部で起こる様々な事件や、ヒロインとの出会いにより、他者への優しさを持つ大人の男へ徐々に成長していきます。

なお、とにかく直球勝負の小説で、設定があまりにベタだなぁと感じる箇所もいくつかありました。

子供の純粋さや生きる力を無条件に全面的に信じているという点では、灰谷健次郎さんの作品に共通するものを感じました。あまりにステレオタイプ(話が出来すぎ)な気もしますが、意外とすんなり読めてしまい、あまり気になりませんでした。