小池真理子

冬の伽藍

舞台は軽井沢の別荘地。夫を交通事故で亡くした悠子は、同じく妻と死別した若き医師の下で薬剤師として働き始める。やがて2人は憎からず思うようになる が、一方で悠子は、医師の実父が露骨な誘いをかけてくるのを断りきれないでいた。

医師の妻の死に実父が関係していることを悠子が知った時、悲劇は訪れ る……。 15年間にわたる大人の男女の愛憎。美しい自然の移ろいを背景に、起承転結のはっきりしたプロットを持つ恋愛小説の王道だ。

一昔前なら宮本輝の 独壇場だったジャンルだが、今は、小池真理子がその後を継ごうとしている。

冬の伽藍 (講談社文庫)冬の伽藍 (講談社文庫)
小池 真理子

夏の吐息 (講談社文庫) 恋 (新潮文庫) 浪漫的恋愛 (新潮文庫) 欲望 (新潮文庫) 無伴奏 (新潮文庫)

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参考レビュー

愛したという事実

過去に訳ありの男と女が出会い,やがて恋に落ち愛し合う。作品は終わっても,その後の義彦と悠子の姿がはっきり見えるようなその終わり方は,切なさだけが降り積もった心の中に少しだけあたたかなぬくもりを感じさせてくれる。

そこが小池真理子の世界なんだと納得できる作品。第1章から第2章への展開の変化。

ドキドキするミステリーも好きだが,言葉が出てこなくなるほど胸が締め付けられる恋愛小説もまた心地よい。そして,最終結末。それは,そこから始まる長い長い心の喪失,虚無感の始まりであった。第2章がこの作品を際だたせている。

小池真理子ワールドの代表的作品の1つ。読んでいてただ切なさだけが積もっていく第3章。しかし,彼女の作品の男性はいつも決まって寡黙で冷たく,そして美し過ぎる。個人的には小説の舞台の軽井沢千ヶ滝地区に毎年行っているので,風景を脳裏に浮かべながら一気に最後まで読み終えた。

読んで損はない。読み終えた後にいろいろなことを考えさせられる作品。そう,それはまさしく「まちがいなく,あの時,2人は確かに愛した」という確信なのであろう。

会えない時間が愛を育てる

第一章はある意味、男と女の出会いと別れを描く、オーソドックスな恋愛小説である。しかし、第二章以降は顔を会わせることさえなくなり、第三章に至っては、第三者の視点で書かれているので、当事者の心の中が本当にどうなのか、わからない。

第一章はちょっときついかもしれないが、全体的には40代、50代の男でも、充分堪能出来る作品だと思う。しかし、それに続く、50ページほどしかない第二章と、エピローグを迎える第三章で、この作品の本当の良さがわかってくる。

600ページ近い大作で、三つの章からなるが、第一章が全体の半分以上占めている。それにも関わらず、いや、そう言った手法を用いたからこそ、この作品のラストが美しく感動的になったのだと思う。

第一章だけでも一つの作品として完結し、完成度が高い。