幸田文

流れる

梨花は寮母、掃除婦、犬屋の女中まで経験してきた四十すぎの未亡人だが、教養もあり、気性もしっかりしている。

没落しかかった芸者置屋に女中として住みこ んだ彼女は、花柳界の風習や芸者たちの生態を台所の裏側からこまかく観察し、そこに起る事件に驚きの目を見張る…。

華やかな生活の裏に流れる哀しさやはか なさ、浮き沈みの激しさを、繊細な感覚でとらえ、詩情豊かに描く。花柳界に力強く生きる女性たちを活写した幸田文学を代表する傑作。日本芸術院賞、新潮社 文学賞受賞。

流れる (新潮文庫)流れる (新潮文庫)
幸田 文

きもの (新潮文庫) 台所のおと (講談社文庫) おとうと (新潮文庫) 父・こんなこと (新潮文庫) 木 (新潮文庫)

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参考レビュー

内面から出る知性

標準語ではない、東京語。露伴の教育は家事という表の部分でなく、家事を通して日本女性の心や所作というものを伝えたのでしょう。文の父親は文豪、幸田露伴。

幸田文が自らの体験に基づいて記した作品。主人公の梨花(文のこと)からは、日本女性の内面の美しさがあふれだしており、その美しさが文章までを輝かせています。そしてそれを会得した文の紡ぎ出す物語で僕たちも日本女性を知るのです。

物語の中に、梨花が書く文字だけでうならせる場面があります。こんなところが素晴らしいのです。露伴は文に対して家事全般を叩き込んだのは有名な話です。

綺麗な日本語というより、「東京語」なのでしょう。女性を自覚している皆に読んで欲しい名著です。そんな文が作り出した物語。

著者の実体験

文さんは露伴の没後から筆をとったとはいえ、その後は父譲りの才能で順風満帆の作家生活を送った方だと私は勝手に思いこんでしまっていました。

落ち目になっている芸者置屋の住込み女中、これは著者の実体験であったと他書で読み、たいへん驚きました。

ますます落ち目になっていく雇い主の境遇とは裏腹に、主人公が女中の身分から新しい事業の責任者に大抜擢されるところで小説は終ってしまいますが、読者の想像ではなく文さん自身の手になるこの続きの小説があったらよかったのに、といつも思います。花柳界の女性たちの軽妙な会話、さまざまなかけひきなど、他の小説にはないユーモアがあります。

年末になるとこの小説を読みたくなります。始まりはおそらく11月末か12月初めあたりで、年の瀬を越え、1月末か2月初め頃に終ると思われる小説だからです。