倉橋由美子

聖少女

交通事故で記憶を喪った未紀が、事故前に綴っていたノート。そこには「パパ」を異性として恋した少女の、妖しく狂おしい陶酔が濃密に描かれていた。ノート を託された未紀の婚約者Kは、内容の真偽を確かめようとするが…。

「パパ」と未紀、未紀とK、Kとその姉L。禁忌を孕んだ三つの関係の中で、「聖性」と 「悪」という、愛の二つの貌が残酷なまでに浮かび上がる。美しく危険な物語。

聖少女 (新潮文庫)聖少女 (新潮文庫)
倉橋 由美子

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参考レビュー

甘美なる毒薬!

他人の作品を下敷きにするのは、ちょうど子供の塗り絵にも似ているが、彼女の場合は、そういう幼稚さはないので、物真似芸人のように、巧みに、色々な作家の作品を模作するといったほうが剴切だろう。

そのユーモアとは、皮肉とか諷刺とか云われるものであり、倉橋さんの小説は、皮肉たっぷりであり、その上、無邪気で残酷な悪意に満ちている為、若き日の自分にとっては、甘美なる毒薬として作用した。

そして、この『聖少女』は、彼女が薬物調合した毒薬の内で、最も強力な効力を発揮するといっても、過言ではない。

倉橋由美子さんの小説の殆どが、他の作家の文体を下敷きにしてつくられたものばかりである。しかし、私は、倉橋さんの小説には他人を引き込む引力があると思っていて、それは、物真似は物真似でも、単なる物真似で終わっていないところである。

彼女自身もそのことは、数多ある内の幾らかの雑文に書いていてるので、明らかだ。ただ、彼女の模作作品をまがい物として判断を下す人もいるのは、確かで、批評家の間でも、倉橋由美子の作品を批判する立場の人は多くいる。

このことは、倉橋さんの雑文の一つでも読めばわかるのだが、他人の作品を真似しながらも、彼女なりのユーモアを取り入れているので、個性が目眩くばかりに光輝いてい、読み手を惹き付けるのである。

魔球を投げ込まれたような感覚。

近親相姦というタブーを大胆に描いていることに驚きながらも、推理小説のように解けぬ疑問に導かれ先へ先へと呼び込まれるようにページをめくっていきました。物語の内容に不案内のまま読み始めました。

安保闘争の話が含まれていますので、その当時にあって、よくこれほどまでと思いました。その魔球というのも、白いボールが緑や黄色や赤に変化するような、そんなハイカラーな魔球のような小説です。

まるでバッターボックスに立っていると、魔球が投げ込まれてきたような感覚です。そして、この作品が、そういった性の問題を扱いながらも、万華鏡のようなレトリックによって、精神性の高い物語に昇華させている著者の筆力にも圧倒される思いです。