黒木亮

トップ・レフト ウォール街の鷲を撃て

日系自動車メーカーのイラン工場建設のため、一億五千万ドルの巨大融資案件がもちあがった。

大手邦銀ロンドン支店次長・今西は、国際協調融資の主幹事 (トップ・レフト)を獲得すべく交渉を開始するが、かつての同僚で日本を捨て、米系投資銀行に身を投じた龍花が立ちはだかる。そこに突如、世界を揺るがす 敵対的買収が…。

弱肉強食の国際金融の現場を余すところなく描いた衝撃のデビュー作。

トップ・レフト ウォール街の鷲を撃て (角川文庫)トップ・レフト ウォール街の鷲を撃て (角川文庫)
黒木 亮

巨大投資銀行(上) (角川文庫) 巨大投資銀行(下) (角川文庫) 獅子のごとく 上 小説 投資銀行日本人パートナー (幻冬舎文庫) 獅子のごとく 下 小説 投資銀行日本人パートナー (幻冬舎文庫) トリプルA  小説 格付会社 下 (幻冬舎文庫)

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参考レビュー

バンカー(銀行屋)VS ブローカー(証券屋)

顧客との安定的継続的関係を前提にし薄い薄い利ざやを長期に渡って獲得する「融資」を主要業務にする商業銀行と個別案件ごとにスキームを組み立て資金の出してと取り手を結びつけ、その都度厚いコミッションを獲得する投資銀行。

優勝劣敗、冷酷非情な国際金融を熱い人間たちが動かしている様を鮮やかに描き出した秀作。両主人公ともバンカーです。

商業銀行と投資銀行(証券会社)の違いがありますが。その相反する価値観を背負った2人の男が凄まじい火花を散らして激突する欧州シンジゲートローンマーケット。

前者の価値観の最たる者が「信用」であり他者への「信用供与」が存在しなければ金融市場は存在せず、持つ者の信条思想、人種人格、国籍等あらゆる背景を問わない自由な「貨幣」が無くても金融は存在しません。

どちらがいい悪いではなく金融市場にはその2者が不可欠です。

金融市場という宗教、国家、人種、思想、伝統といった数値表現不能な、人間的で観念的なものからもっとも束縛を受けない「カネ」(=利益=数値表現可能な唯物的なもの)が価値のど真ん中に座る世界にいて、前者はそれでもそれらを背負いながら進み、後者はそれらを非情なまでに削ぎ落としひたすら利益(カネ)の最大化に突き進む。

皮肉なエンドの中に対立する両者が互いの価値観を認めていたことが垣間見れます。

国際金融マンの熱き想いと、息詰るストーリーの展開

難しい案件を確固たる信念を持って仕上げていく主人公今西の姿に、国際金融マンとして働くことの喜びや生きがいを、作者は息詰るストーリー展開の中で見事に表現している。そのどうしようもなく日本的な体質的欠陥も容赦なく指摘されている。

しかし、国際金融に縁のない人にも仕事の中身はわかり易く説明されており、それが、よくある業界人の暴露小説といったレベルをはるかに超えた、ストーリー展開を上手く助けて、第1級のエンタ-テイメント小説に仕上げている。

外資系の金融機関や日本の金融機関の実体や、そこで働くことの意味なども登場人物の会話のなかから伺え、学生を含め、こうした世界に縁のない人にも参考になろう。

そして、かつて債権大国といわれた日本の象徴である邦銀が、何故過去10年間、不良債権という癌に冒され続けて今日の姿に至ったか。

次作も期待したい。以上は、かつて作者と同様に日本の金融機関の海外現法で勤務し、同様の思いをしてきた者の感想である。

そして、ロンドン、ニューヨーク、イスタンブール、スウェーデンと風景描写も小説に上手く彩りをそえている。