久世光彦

一九三四年冬―乱歩

スランプの末、突如行方をくらました超売れっ子作家・江戸川乱歩。謎の空白の時を追いながら、乱歩の奇想天外な新しき怪奇を照らす。知的遊戯をまじえ、謎の日々を推理。第7回山本周五郎賞受賞作。

一九三四年冬―乱歩 (創元推理文庫)一九三四年冬―乱歩 (創元推理文庫)
久世 光彦

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参考レビュー

乱歩への深い愛情の賜物

乱歩自身の作品に優るとも劣らない幻想的作品だ。乱歩に対する作者の愛情がヒシヒシと伝わる。本作はその空白の期間を作者があり余る想像力で補い、乱歩のそして時代の様子を描いたもの。ところが、このホテルが怪しいのだ。

戦前の東京の様子・雰囲気も見事に描かれ、作者の研究ぶりが窺がえる。この状況に押されるように、乱歩は新作(勿論作者の作中作)を書き始める。

打ち切りの理由は「構想の未熟」であったと言う(乱歩の構想は「アクロイド」だったらしい)。1934年、乱歩は新聞に連載していた小説「悪霊」を突然自分の都合で打ち切るという醜態を世間に晒し、数ヶ月間姿を隠していた。

乱歩への愛情が産んだ乱歩ファンへの最高のプレゼントであり、構成も確かな耽美小説の傑作。この作中作は素晴らしい出来で、エロティシズムに溢れた怪異譚の傑作。そして、最後に仕掛けが用意してある全体の構想も見事の一言に尽きる。

物語は、乱歩が数々の謎に満ちた出来事に刺激を受けながら、この「梔子姫」を書き上げるまでを描く。ホテルの雰囲気自身が怪しいし、美青年のボーイ、謎の麗人、その他の怪しい宿泊客等、いかにも乱歩好みの状況だ。

その名は「梔子姫」。乱歩は友人に紹介されたホテルに泊まり新作を書こうとする。

この独特の雰囲気がいい

懐古趣味的で、乱歩の世界の濃密なエロティシズムと差し色のようなグロテスク。久世さんの作品の中では一番好きです。雰囲気にひたりたい時に。

どれも独特の雰囲気がありますが、中でもこれはイイです。美青年に気を引かれる中年男、という部分は少し「ベニスに死す」を彷彿とさせ、またあるときは美女に目移りし、ホテルの隣の部屋に怪奇的妄想を抱いたりする、スランプで情緒不安定になっている乱歩の、外人向けホテルに逃避中の数日間(?)を描いています。

また、そんな生活から生み出される妄想を昇華したような小説が、作中作で全部読めるんですが、これは乱歩っぽいといえば乱歩っぽいんですが、何かもっとこう・・・熟れた桃の中にどっぷり入ってめくるめく陶酔に酔っ払ったような感じです。

アクがあってくせになるタイプの本です。私はめったに読み返しはしないのですが、これはときどき読み返してしまいます。