町田康

告白

人はなぜ人を殺すのか――河内音頭のスタンダードナンバーで実際に起きた大量殺人事件<河内十人斬り>をモチーフに、永遠のテーマに迫る渾身の長編小説。殺人者の声なき声を聴け!

告白 (中公文庫)告白 (中公文庫)
町田 康

月の砂漠をさばさばと (新潮文庫) 漁港の肉子ちゃん (幻冬舎文庫) くっすん大黒 (文春文庫) パンク侍、斬られて候 (角川文庫) 何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫)

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参考レビュー

心を震わす一冊です

熊太郎がはまるドツボは笑えるように見えて実は自分にはねかえってくる重さがあります。なのに、この本はなぜか素通りできず手にとってみて・・・大正解でした。

綺麗にまとまった小説に飽きた方は是非手に取っていただきたい傑作です。食わず嫌いで今まで一度も読んだことのなかった町田康。

周りの視線を気にし、自分の中で堂々巡りして本当に言いたいことがいえず気がつけばにっちもさっちもいかなくなって後悔したことを思い出し、とても面白いのに一気に読めず、インターバルをおきながらでないと読み終えることができませんでした。

熊太郎の結果的に善行に終わった行為が生んだ新しい出会いが熊太郎の存在意義を高めたように見えて、より一層熊太郎を抜き差しならぬ立場に追い込んだように感じられ、最後の方の場面での熊太郎の独白は、心に風穴があいたようでした。

なんという終わり方!しかし、一人の人間が生きた実感に満ち溢れています。濃厚でおかしみにあふれた河内弁に熊太郎の標準語のことばや思索が時折入るおかしさ、違和感。

いつのまにか熊太郎びいきに

自分の言動が周りには異質なものに見え、煙たがられる。笑える。もちろん熊太郎は周りが阿呆だと思っているのだが、その他人に伝わらない思いが熊太郎の人生を変えていく。かといって野暮ったらしくなく、むしろ作品全体の空気を作り出している。

自分が阿呆なのか周りが阿呆なのか。その究極的な問いにこの作品は真っ向からぶつかっている。その、あかんではないか。そんな愚直で滑稽な熊太郎の言動に、あかんではないか。

自分では理不尽だと思うことが他人には理解されない。人はなぜ人を殺すのか。十人を殺す小説なんだから暗いのだろうと思っていたら真逆だった。特に熊太郎の最後の言葉は私の心の内に尾を引いていつまでも私の心をぐらつかせている。

周りの村民が使う言葉だけでは自分の思弁を表現しきれなかった。とつっこむ筆者の声には思わず吹き出してしまった。明治期の農村社会という共同体の中で熊太郎は言葉を持っていなかった。

にはじまり熊太郎の最後の言葉「----」に終わる構成の妙には舌を巻いた。