三浦綾子

「わだしは小説を書くことが、あんなにおっかないことだとは思ってもみなかった。あの多喜二が小説書いて殺されるなんて…」明治初頭、十七歳で結婚。小樽 湾の岸壁に立つ小さなパン屋を営み、病弱の夫を支え、六人の子を育てた母セキ。

貧しくとも明るかった小林家に暗い影がさしたのは、次男多喜二の反戦小説 『蟹工船』が大きな評判になってからだ。

大らかな心で、多喜二の「理想」を見守り、人を信じ、愛し、懸命に生き抜いたセキの、波乱に富んだ一生を描き切っ た、感動の長編小説。三浦文学の集大成。

母 (角川文庫)母 (角川文庫)
三浦 綾子

銃口〈下〉 (小学館文庫) 銃口〈上〉 (小学館文庫) 続・泥流地帯 (新潮文庫) 明日のあなたへ―愛するとは許すこと (集英社文庫) 海嶺(下) (角川文庫)

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参考レビュー

母親としての自分を考え直したくて

現代は、豊かになりました。でも、セキの人生に触れた時、その子供達の成長を垣間見た時、ほんのひとときだけは自分の時間を削って家族、特に子供に触れ合ったほうがいいのかも・・と思いました。そう心から願います。

子供を信じきる母の姿が、今の私に一番必要に思えたから。

育児に迷いを感じる母親にこそ読んで欲しい。世間で生き抜くことはできても、無償の愛を持つ絶対的な存在の不在は、淋しい限りでしょう。子供は貧乏に苦しみながらも全うに生きる両親の姿を見て成長しました。親も省みないでしょう。

貧乏で生活をするために忙しい人も居るでしょうが、それよりは、自分のために忙しくしている人が多いように思います。

貧乏でも助け合い、お互いを思いやる気持ちを持った家族です。この本を読んだのは、小林多喜二への興味ではなく、母親としての自分を考え直したかったからです。

どんなに忙しくても、子供の話に耳を傾け、子供の良い面を認め、笑いのある家庭を作った両親です。でも、忙しくなりました。子供が親を尊敬しないわけが無い。

子供は親の背中を見て育ちます。これは、感想ではなく、この本を読んで自分の過ちに気付いた私の反省文です。悪いことではありません。子供に向き合わない親の子供は、やはり子供に向き合わないでしょう。

セキは多喜二を含めた子供全員を信じています。

親子愛と家族愛の傑作作品

当時、小林家はかなり貧しかったものの、笑いの絶えない明るさがとても魅力的に感じた。

この点では野口英世の生涯を描いた「遠き落日」(渡辺淳一)にみられるように、母親はどんな時でも息子の味方となって応援している、といった共通点があり、感動的だ。

小林多喜二の母親が方言で、当時の様子を語る形で物語が進む。また、母親が息子を想う気持ちが随所に見受けられた。間違いなく傑作。

貧しさを家族が思いやりの心でカバーし合った形である。印象的だったのは、かなり心の優しい真っ直ぐな人間であったこと。

親の死を隠して年金を騙し取るような事態もみられるなど、「無縁社会」となってしまった我が国では、こうした家族の結び付きをもう一度見直して欲しいものだ。

小林多喜二の作品は「蟹工船」が有名であるが、その作品を生み出した当時の家族や家族を取り巻く関係者の状況がよく分かる。

貧困に苦しむ中、初の給料で弟の欲しがっていたバイオリンをプレゼントしたこと、等のエピソードがあるほか、随所に世の中の理想の姿を語る部分があった。