森絵都

宇宙のみなしご

あなたと手をつなぐ人がきっと、いる。
真夜中の屋根のぼりは、陽子・リン姉弟のとっておきの秘密の遊びだった。やがて、思いがけない仲間がくわわって……。

宇宙のみなしご (角川文庫)宇宙のみなしご (角川文庫)
森 絵都

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参考レビュー

手をつなぐ人がいる

主人公と弟リンが、夜中に屋根にのぼる、という遊びを始めます。あまり安易に感動という言葉を使いたくないのですが……とりあえず自分はこの作品を読んで良いと思える心のきれいさを一部とはいえ持っていたのですね、ちょっと意外かも。

タイトルに宇宙とついていますし、SF的要素があると思っていたのですが、全くありません。駅のキオスクはやっぱり便利ですけどね。

普通の女子中学生を主人公とした、現実的な内容の児童文学です。森児童文学作品は、なんといっても文章が、平易で読みやすいながらもユーモアがあり、それでいて芯の部分では感情移入しやすいです。

また逆に、表紙イラストのイメージから、あまりにも子供向け過ぎないか、という気もしたのですが、読んでみれば、普通に小学校高学年くらいから中学生、大人にいたるまで充分に楽しめます。

読者対象である中学生以下もですが、大人が読んでも心の琴線に響いて透明な音色を奏でます。物語の舞台は1990年代ですが、中身の方は時代が変わっても価値の落ちない普遍的なものです。そこに主人公の友人?二人が加わり…という話です。

作者の他の児童文学作品と比較しても、ご都合主義の無さなどからいって随一の完成度だと思います。それが表紙イラストのイメージです。

これ以上はネタバレ避けしますが、全10章構成の中で小さな伏線を回収しながら進む物語は、文章やキャラの魅力と相まってとても魅力的です。

アクティブで、かつ腹に響く小説

軽めの人物かと思っていた彼女たちが、次第に自己主張を始めて、主役となっていくこと、そして、大人にわからない中学生の部分をそれぞれと、みんなが持っていることが素晴らしく感じました。

陽子やリン、七瀬さん、キオスクの感じるくだらない楽しさも、悩みも10年前の私が感じたもので、そして今の私が感じるものでもあります。最後まで、太い線で貫き通した結論の部分は、ぜひご一読願いたいと思います。

一文一文はそれほど長くなく、リズム感があり、すっと頭の中に入ってきます。森絵都さんの小説を読むのは『いつかパラソルの下で』と『カラフル』に続いて三作品目になりますので、まだまだ、森絵都ファンとしては駆け出しでおこがましいですが、この作品が個人的にはいちばん好きです。

千人の小人たちの例えは大好きだし、その節のラスト三行の「ひとりきりで」の記述も美しいです。ぜひ同年代の子どもたちにも読んでほしい作品ですし、内容や長さからも読みやすい本だと思います。

楽しい姉弟の掛け合いの中で、七瀬さんの悩みと、キオスクの悩みを上手く織り交ぜて話に仕上げた構成には恐れ入ります。私は大人の読める児童文学というカテゴリが大好きで、読み漁っていますが、こうした作品に欠かせない小気味よいリズム感と、なつかしさを感じました。

直木賞候補になったことで、重松清など同様、小中学生への知名度が上がっていますが、実際この小説も過去に国立の中学などで出題されています。

何かあると我が家の屋根に上って一夜を過ごし、甲府盆地の扇状地の縁の明かりを見上げていた私にとって、この文章は、背中が疼くほどに共感を感じました。

蛇足ながら、私立に通ったことのない私も、学業の傍ら塾で教えていて、入試問題で森絵都さんをみかけることも増えてきました。そして、一度くらい屋根の上に上ってほしいかな、と思います。