森博嗣

有限と微小のパン

日本最大のソフトメーカが経営するテーマパークを訪れた西之園萌絵と友人・牧野洋子、反町愛。パークでは過去に「シードラゴン事件」と呼ばれる死体消失事件があったという。萌絵たちを待ち受ける新たな事件、そして謎。核心に存在する、偉大な知性の正体は…。S&Mシリーズの金字塔となる傑作長編。

有限と微小のパン (講談社文庫)有限と微小のパン (講談社文庫)
森 博嗣

数奇にして模型 (講談社文庫) 今はもうない (講談社文庫) 夏のレプリカ (講談社文庫) 幻惑の死と使途 (講談社文庫) 封印再度 (講談社文庫)

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参考レビュー

コードで書かれた傑作

S&Mシリーズを読了して、特に本作を読了して思うことは2つ。時にコードはばらされスクリプトのインクルード文で引かれるが故に見えなくなってもスクリプトに自らの名をCopyrightとともに残したコードは未来永劫ネットワークのどこかで生き続けるだろう、と。1998年リリース。S&Mシリーズの第10作。巻末の解説は島田荘司である。

1つは『真賀田四季』というキャラクターを森氏は最も愛し、大切にしているのだな、ということ(これは『四季』を読んでも分かる。最終作と表現しないのは『四季』(僕は限定版の愛蔵版を手に入れることができたシアワセものである再登場するからだ。僕が死んでも僕が作ったプログラムは生き続けるだろう、と。それはまさにプログラム・コードである。時に僕もプログラムを書いていて思う。

パンはそれを象徴するアイテムだ。そしてその建築物は実に詩的なコトバで語られた。コードで書かれたこの傑作は未来永劫ネットワークのどこかで生き続けるだろう。そしてもう1つはその最愛のキャラクターに語らせる『生と死』について、そして重ね合うように表される『バーチャルと現実』についての森理論である。

生きているということを考える四季・犀川・萌絵。島田氏の『森博嗣の文章は絶えず独立した一行になりたがっている』という評は実に森作品を的確に言い表している。本作は特に最後がスゴイ。御大の登場も当然と思える他に無いモノを森氏は建築した。

評価の分かれる作品

Web検索して色々な人の感想を読んでみたのですが、本作をシリーズの最高傑作に捉える人が結構いる一方で、否定的な見解の人も多いという、評価の分かれる作品のようです。とは言え、シリーズを全部読み切ったという達成感はあるので、多分私は『四季』も読んじゃうだろうと思います。本作での彼女の行動は冷静に考えれば結構間が抜けている面があり、とても「天才」とは思えないのです。

S&Mシリーズもようやく最終章に辿り着きました。従って、私にとっては本書はイマイチなものとなりました。犀川と同様、作者自身が真賀田四季に対して恋愛感情に近いような気持ちを抱いているように思えるのですが、その為に筆が鈍っている感は否めません。

前作『数奇にして模型』が良かっただけに、ちょっと残念な最終作となってしまった気がします。どちらの側の気持ちもよくわかります。

私としては、過去9作の様々な伏線がつながっている等のシリーズとしての魅力は確かに認めるものの、そうした魅力が光るのはあくまでも単独の推理小説としての完成度が基本にあってこそだと思います。シリーズものの魅力というものを重視する人には本作は面白く、単独の推理小説として読む人にはつまらないという具合に総括できるのではないでしょうか。