法月綸太郎

頼子のために

「頼子が死んだ」。十七歳の愛娘を殺された父親は、通り魔事件で片づけようとする警察に疑念を抱き、ひそかに犯人をつきとめて相手を刺殺、自らは死を選ぶ ―、という手記を残していた。

手記を読んだ名探偵法月綸太郎が、事件の真相解明にのりだすと、やがて驚愕の展開が。精緻構成が冴える野心作。

頼子のために (講談社文庫)頼子のために (講談社文庫)
法月 綸太郎

一の悲劇 (ノン・ポシェット) 二の悲劇 (ノン・ポシェット) 新装版 密閉教室 (講談社文庫) 首無の如き祟るもの (講談社文庫) 倒錯のロンド (講談社文庫)

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参考レビュー

完成度と密度の高い、著者のベスト

もちろん、世間的には受賞作「生首~」や「一の~」の評価は高い。

本作は、評価や感想が、非常に書きにくい作品なのである。

ストーリーについては述べない。そして、本作が今のところ、著者の作品のベストである。ただ、本作を転機として、著者の作風は謎解きよりも、ヒトの心理の動きに重心がシフトした。

本書を読んで思ったことは、設定が松本「点と線」によく似ている、ということだ。これもネタなので、言えない。だが、作品の密度、完成度、そして著者に及ぼした影響等を考えると、私的には本作がベストだと思う。

本作で著者がやろうとしたことは、たしかにロス・マクの作品にも見られるアレである。これは作品のネタになるので、詳細を述べるわけにはいかない。ただ、後味の良い作品ではない、とだけ言っておこう。

大満足の傑作!!

推理「小説」ではなく「推理」小説を、という言葉はよく聞くし、推理こそを書きたいという志向はわかる。

元々これまでもトリックそのものに目新しさはないし、この『頼子のために』でもテーマは最初からわかりすぎるほどわかる(そのテーマのドロドロ具合は、外国で言うとエリザベス・ジョージあたりのテイスト)が、それでも、探偵法月綸太郎の事件に取り組む姿勢が(引っ張り出された理由はクイーンの『九尾の猫』のようだが)前作までとはまるで違う。

解説で池澤夏樹氏が、どうかこのままハードボイルドに、と書いておられるが、ハードボイルドとまではいかずともどうかこのままの探偵法月綸太郎で行って欲しいと思わせる傑作!(なるべくなら処女作『密閉教室』、法月ものの『雪密室』『誰彼』の後に読んで頂けると違いがはっきりわかると思う。)しかし前作までは探偵自身と読者が探偵の推理に鼻面を引き回されるだけだったのに対し、この作品で初めて、犯人の欺瞞と探偵の推理のプロセスが「物語」にきっちりはまった。

本当にいい意味での私立探偵小説になっている。ボリュームでは前作より少ないが読み応えははるかにこちらの方が上。

これまでの3作よりもずっと小説として面白い。