貫井徳郎

追憶のかけら

事故で愛妻を喪い、失意の只中にあるうだつの上がらない大学講師の松嶋は、物故作家の未発表手記を入手する。

絶望を乗り越え、名を上げるために、物故作家 の自殺の真相を究明しようと調査を開始するが、彼の行く手には得体の知れない悪意が横たわっていた。二転三転する物語の結末は?著者渾身の傑作巨篇。

追憶のかけら (文春文庫)追憶のかけら (文春文庫)
貫井 徳郎

愚行録 (創元推理文庫) 灰色の虹 (新潮文庫) 乱反射 (朝日文庫) 夜想 (文春文庫) 後悔と真実の色 (幻冬舎文庫)

by G-Tools

参考レビュー

過去と現在が巧妙に絡み合っていくこの作品に脱帽です!

過去と現在を結び付けて行く過程の中に主人公の松嶋が自殺した作家の佐脇とかぶっていくところがすばらしいセンスを感じさせられました。謝罪し、連れ戻そうとする前に妻は交通事故で命を失ってしまう。

この作家は自分が自殺する前に、その経過を手記にまとめていたのだ。

自分の手で育てたい、それには世間で認められる実績が必要だった。そんなある日、松嶋のもとに戦後すぐの著名な作家の未発表手記が届けられる。お勧めの一作です。

大学講師を務める松嶋は一度だけの風俗遊びが妻にばれ、妻は3歳の娘を連れて実家に帰ってしまう。

娘は同じ大学に勤める麻生教授とその妻が引き取り、ぎくしゃくした関係に陥ってしまう。いやー、複雑な内容であり、これはまさにプロの仕業と言えるかもしれません。

興味のある方は是非ご一読ください。60年前を遡る調査を依頼された松嶋は巧妙に仕掛けられた罠にはまっていく。

読み応えがある

いったいだれが、何のために? 冴えない大学講師が必死に謎を追ううちに、全く関連がなかったはずの二つの時代、二人の人生が交差していく構成が見事でした。「手記」が旧字体・旧かな使いで、これもまた雰囲気があって面白かったです。

50年後、ひょんなことでその手記を入手した大学講師は、事件の真相を探り始めたのだが、それをきっかけに彼もまた何者かの悪意に絡め取られていく。

美談にこそなれ悲劇になど結び付きそうにもない善意の行いは、なぜか得体の知れない敵を呼び寄せ、ささやかな幸せに包まれていた若者の生活は徐々に破綻した。

亡き友人に願いを託された新人作家の若者が、戦後間もない東京で雲をつかむような人探しを始めた。

自分を取り巻いていた世界がひっくり返って思わぬ悪意を晒すが、しかし悪意もまたひっくり返って・・・救いのあるラストがよかったです。

殺人事件も警察捜査もない本作は、読み始めはどちらかというと地味な印象でしたが、ミステリーとしては決して地味ではなく、特に終盤、主人公を取り巻く世界がオセロのように一転また一転する様は圧巻でした。

時代も背景も違う二人の人間が、同じように顔の見えない敵に追い詰められていくというストーリーがとても謎めいています。

わけのわからないまま追い詰められた若者は、すべてを手記につづって遺書とした。「かつての恋人を探し出して、謝罪の気持ちを伝えてほしい」。