小川一水

煙突の上にハイヒール

背負って使用する、個人用ヘリコプター。ネコの首輪につけられるような、超軽量の車載カメラ。介護用のロボットも、ホームヘルパー用のロボットも、少し先 の時代には当たり前になっているのかも。

あなたなら、楽しい使い方を思いつけますか?テクノロジーと人間の調和を、優しくも理知的に紡ぎ上げた、注目の俊 英による最新傑作集。

煙突の上にハイヒール (光文社文庫)煙突の上にハイヒール (光文社文庫)
小川 一水

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参考レビュー

100年前の人も、100年後の人も、環境はいろいろ変わっても、悩むポイントは同じ

煙突の上にハイヒールというのは、国道に落ちている軍手とか、歩道脇に置いてある靴とか、どうしてこんな所にこんな物があるの?という日常の不思議の延長線上にあるもの、と解釈すれば良いのではないか。

これは少し未来の物語なのだけれど、そこで使われている技術は頑張れば実現できそうなものがほとんど。発表時期は騒ぎが起こる前なのだけれど、ついこの間の騒ぎを思い起こさせるので、最後の短編がインパクトが強い。

実際に起こった、感染者に関する報道を思い起こすと、こういうことがあっても不思議ではないだろうなぁ。だから、不思議に思うものは少し変わるかも知れないけれど、人間は今とあまり変わらないよ、ということだろう。

この前テレビを見ていたら、ある大物司会者が、芸人は同じ世代に楽しんでもらえると一緒に成長していけるので芸人人生が長くなる、みたいなことを言っていたけれど、これも同じことなのだろうか?

下に吹き付ける風はすごいんじゃないかと思うけどね。人は年齢を重ねるし、生活環境が変化するのだから、それも当然なのだろう。

白鳥熱という、H5N1型の鳥インフルエンザの世界的大流行後の日本を描いている。しかし、何年も前から同じ作家の作品を読んでいると、段々と表現方法が変わっていくのが分かって面白い。

「社会」と「人間」の確かな手触りがある良作

防疫のために――というのではなく、作中のような事態が発生したとき、人間が他者に対して社会的にどれほど残酷になり得るか、という事実と可能性をあらためて知っておくために。

たくさんの読者に、広く読まれて欲しい一冊です。ひとりで空を飛べる機械、猫が運ぶカメラ、ホームヘルパーロボット、介護ロボット――どれも、あと少しすれば現実の社会で実現しそうな未来の姿。

現実にいる私たちが、「そうならないで済む社会」を、ほんの少しでも獲得することができるように。技術が人間を変えていくのではなく、技術が人間の本質や内面をあらわにしていく。

とりわけ、本作の最後に収録されている「白鳥熱の朝に」は、新型インフルエンザが現実の問題となっているいまこそ、多くの人にぜひ読んでもらいたい。

新しい技術が広がったとき、それを通して見えてくるのは「普遍的な人間の本質」。短編集なので題材はいろいろ。それを描き出す著者の視点は、非常に冷静で理知的で、ときに厳しく、しかし、本質的にはとても温かい。

「社会」は「人」を受け入れるために存在するのであり、排除するためにあるのではない、という自信を失わないで済むように。