鬼塚忠

Little DJ―小さな恋の物語

海を臨む病院に入院して、ディスクジョッキーになった少年・太郎。毎日届くリクエスト、病室に響く懐かしいメロディ、入院患者たちとのゲストトーク…少年のお昼の放送は、病院をあたたかな空気で満たす。

映画も公開され、話題になった感動の物語が待望の文庫化。

Little DJ―小さな恋の物語 (ポプラ文庫)Little DJ―小さな恋の物語 (ポプラ文庫)
鬼塚 忠

Little DJ 小さな恋の物語 [DVD] カルテット! (河出文庫) 恋文讃歌 海峡を渡るバイオリン (河出文庫)

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参考レビュー

小さな恋の物語

小さな恋の、そして小さな勇気の物語。その子が故郷から就職のために上京し、はじめて東京の自分のマンションに入居した際、まだ空っぽのはずの自分の部屋の中に、一冊の本がポツンと置かれていたという。

職場の友人の女の子から、こんな体験談を聞いたことがある。この本は、その第一候補だ。

読み終わったあとは、ただみずみずしさだけが、心地良く残っていた。その部屋にそれまで住んでいた人から、新しく住む彼女への贈り物というわけだ。この後読感は、カバー写真から感じる感情そのままと言ってもいいかもしれない。

そこで言葉以外の表現方法を借りるならば、カバー写真が、まさにこの本のイメージにぴったりであり、その映像センスには脱帽する。それは、まだぜんぜん世間で話題になる前の”セカチュー”だった。

読んでいる最中、小学校高学年の頃に親に対して抱いていた感情や、そっくりそのまま校舎に置き忘れてきてしまった友情、あるいは当時の淡い恋心など、様々な記憶の断片がたびたび一瞬フワッと蘇り、そしてすぐに消えていった。

お洒落な話でしょ?単純な僕は、次に引っ越しをする時、これを真似しようと思っている。この感覚を、どうにか言葉を操って伝えたいのだけれど、それは僕の貧困なボキャブラリーでは筆舌しがたいほどで…。

泣きました。号泣です。

少年は、まさに命が尽きようとしているとき、生涯にたった一人、恋した少女に、ようやく想いを伝える。

その懸命さ、切実さ、まっすぐさ。もちろん、舞台は1970年代、最後の季節を病院でDJをして過ごすことになった白血病の少年の初恋が、当時の流行曲に彩られて語られるというストーリーは、同時期に少年期を過ごした私には、それだけで涙をそそられるものがある。

でも、それだけではない。それは、自分に関わる人とは、ちゃんと向き合って、素直な気持ちを伝えなければいけないという、私がもう忘れかけていたことを突きつけてくる。

なぜだろう。そのストーリーを通じて、この本は、伝えるということの意味を教えてくれるのだ。この年になって、小説に感動して泣くことなどほとんどないなのに。

そこに心が揺さぶられるのだ。こんな気持ちを忘れかけているんじゃないかと思っている人に、ぜひ、読んで欲しい本である。