佐藤亜紀

雲雀

オーストリア軍の兵士、オットーとカールの兄弟は、膠着状態の戦線で、ロシア兵達の虐殺を目撃したことをきっかけにジェルジュと呼ばれる若者に出会う…。

第一次大戦の裏舞台で暗躍する、特殊な“感覚”を持つ工作員たちの闘いと青春を描いた連作短篇集。芸術選奨新人賞を受賞した『天使』の姉妹篇。

雲雀雲雀
佐藤 亜紀

天使 1809 ナポレオン暗殺 叛逆航路 ラドチ戦史 (創元SF文庫) 戦場のコックたち 開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―

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参考レビュー

天使を読んだら必ず読んだほうがいい

雲雀を読むと天使ももう一度読みたくなる。雲雀で登場するオットーとカールの兄弟がジェルジュの部下であるという事実が天使をさらに面白くする。天使ではオットーとカールの存在はまったく描写されなかった。

ジェルジュの部下やジェルジュの父、ジェルジュと関わりのある人物達を補完し、最後にジェルジュ自身を補完する。ジェルジュが主人公で無い編もあるため、違う人物からジェルジュがどう見えるのかもわかる。

しかし、我々の知らないところでオットーとカールは動いているのだ。雲雀は天使を補完し天使を完結させる小説なので、天使を読んだら必ず読んだほうが絶対に面白い。

前作天使の外伝。そしてさらに雲雀を読み終わったあと天使を読むとまた違った面白さが堪能できるはずだ。天使を読んだら必ず読んでおきたい小説。

中編集なため話事態は天使よりも理解しやすい。ジェルジュの指示でオットーとカールが密かに動いているとすれば、天使を読むときにその辺を考えて読むとよりいっそう面白くなると思う。

最後の編はスパイ小説のようにスリリングな展開もあり、ジェルジュのその後も書かれているため読んだら天使シリーズは終わったのだと満足できる。

シビアな文体の心地よさ

ジェルジュの異能など、設定部分はライトノベルのそれに近いのですが、文体やプロットは間違ってもラノベではなく、純文学です。

どれも読んだ後は、すごく満足できました。こういう、ジャンル小説×純文学みたいな作品をもっと評価する土壌が日本にあればいいのになあと思います。

ジャンル分けが難しく、そもそもその意味もないかもしれませんが、読後感だけで言うなら、アーシュラ・K・ル=グヴィンの『闇の左手』『所有せざる人々』などのSF作品を読んだ時の感覚に近いです。

それも良く練られたプロットだからこそ可能なことでしょうね、無駄を省かれた物語の洗練度は並外れています。

一文の密度がとても濃く、斜め読みはとても無理なので、噛みしめるように読み進めたのですが、それがすごく心地よいのです(笑)文章を噛みしめて物語の世界に沈み、ラストに辿り着くと、「ああ、久々に読書をしたなあ。」という幸せな気分になりました。

自分は『天使』⇒『雲雀』の順で読みましたが、相変わらず可能な限り説明文を省いていて、読者に対してシビアな文体です。第一次世界大戦の最中、特殊な「感覚」を持つジェルジュの半生を描いた長編『天使』の姉妹編で、こちらは短編集になっています。