澁澤龍彦

高丘親王航海記

貞観七(865)年正月、高丘親王は唐の広州から海路天竺へ向った。幼時から父平城帝の寵姫藤原薬子に天竺への夢を吹きこまれた親王は、エクゾティシズム の徒と化していたのだ。

鳥の下半身をした女、犬頭人の国など、怪奇と幻想の世界を遍歴した親王が、旅に病んで考えたことは…。遺作となった読売文学賞受賞 作。

高丘親王航海記 (文春文庫)高丘親王航海記 (文春文庫)
澁澤 龍彦

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参考レビュー

もっとお元気な頃に執筆して頂きたかった

願わくば、もっとお若い頃に、幻想やエロティシズムの暴走をコントロールしきれない頃に、この連作を書いて頂きたかったと、ヒネたファンは思うのでした。

不思議な文物や、歴史の中の一コマが、東方見聞録だか西遊記を思わせる昔の神話的で荒唐無稽な東南アジアを行く親王方の目に触れると言えば、多分にロマンティックな響きもありますが、今まで渋沢氏が数々のエッセイの中で俎上に取り上げてきたネタの一部のみを切り取り、旅行記に仕立て上げたともいえると思います。

腐っても渋沢なので、かなり使い古した題材を使っていても、とても面白い読み物にはなっていると思うのです。

特に、それが主人公の死に集約する為に使われ、そして氏の遺作となってしまった事を考えると、複雑な思いで一杯なのでした。

それでも...幻想的で多分に散文的過ぎる余り、ストーリー全体よりも一シーンの色彩のみが強烈に脳裏に焼けついてしまう、お若い頃の小説が好きだった身としては、幻想や表現の暴走が無い極力無駄を省いた文体で構築された堅牢な楼閣といった風情のこの著作に対して、無条件でサイコーと云えないのです。云わずと知れたザ・「渋沢達彦の遺作」です。

病床にありながら、このような起承転結のしっかりした幻想的な連作ものをお書きになれたのは凄いとは思うものの、文中、余命幾許もないご自身と高岡親王の姿を重ね合わせているような、それでいて突き放した理性的な観察者としての目がいつもあるような気がして、ある意味やり切れない気もします。

夢幻の彼方へ

物語の半分以上が高丘親王の夢であり、アンチポデス、アナクロニズム等が存分に発揮されている、まさに幻想文学の手法の全てがつまっていると言っていい作品。

「黒魔術の手帖」やサドの翻訳など、西洋(裏)文化の紹介者としての活動も積極的であった筆者の最終的に選んだテーマが輪廻転生であり、東洋思想であった点は我々日本人としても考えてみる余地があるのではないかと思う。

幻想文学というと色目で見る方がいるかもしれないが、この本のテーマは普遍的な実存の意味にまで昇華されており、一生涯を通じての愛読書となる事は間違いないであろう。

病床に臥しながらも執筆された澁澤龍彦の遺作であり、その思想を総括する最高傑作。