杉浦日向子

ごくらくちんみ

未婚の母を決意したタマヨが食べたいという「たたみいわし」。幼なじみの墓参の帰りに居酒屋で味わう「かつおへそ」。元放蕩息子のロクさんが慈しみつつ食 す「ひょうたん」。

ほかにも、「青ムロくさや」「からすみ」「ドライトマト」など68種。江戸の達人が現代人に贈る、ちんみと酒を入り口にした女と男の物 語。全編自筆イラスト付き。粋でしみじみ味わい深い、著者最後の傑作掌編小説集。

ごくらくちんみ (新潮文庫)ごくらくちんみ (新潮文庫)
杉浦 日向子

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参考レビュー

人間の喜怒哀楽が短い文章の中に凝縮

どんな小説を読むよりも、的確に人間の心を捉えていると思います。これだけ多くの「ちんみ」が紹介されているのに、実際に賞味したことのあるのはほんの一握りでした。

それ以上に、この本の素晴らしさは、せいぜい2ページほどの「ショートショート」のような文章の中に描き出されている「人生の機微」です。

素晴らしい作品になっています。そこに取り上げられている「ちんみ」と「酒」と違和感なく一体化しています。

そこには、人間の喜怒哀楽が短い文章の中に凝縮されています。

それでも、その「ちんみ」とぴったりあった「酒」が組み合わされ、食べて見たいなという気にさせてくれます。

旨いだけとは限らぬちんみは、人生の、妙味そのもの。

酒が飲めなくても、ちんみ苦手でも大丈夫。食べ物話なのに泣ける。人と、食べることが好きならば、読んだらいいと思います。生きることや死ぬこと、愛することや別れること、それらと「飲み、食べること」は、きちんと同じお品書きにある。

だから、食べたいと思った。

皿を舐めるように一字一句噛み締め、転がし、堪能し、舌鼓や膝を打つように、涙腺緩ませ、読み進む。現実は、誰しも辛い。ほろ苦かったり、塩っぱかったり、まさに小鉢の珍味のような、珠玉の人間の模様たち。人間が描かれている。

好きな人たちと、今回の人生のうちに。ただたんに旨いだけではない。それを希望とか未来と言うんじゃないかなとか思った。だって僕は、ここにでてくるちんみの1割も食べたことが、無い。

ささやかに。もしくは、そうでない人や、そうでないときには。だから、ごくらくな時が必要だ。