田中小実昌

ポロポロ

父の開いていた祈祷会では、みんなポロポロという言葉にならない祈りをさけんだり、つぶやいたりしていた表題作「ポロポロ」の他、中国戦線での過酷な体験を描いた連作。谷崎潤一郎賞受賞作。

ポロポロ (河出文庫)ポロポロ (河出文庫)
田中 小実昌

新編 かぶりつき人生 (河出文庫) 上陸 (河出文庫) 田紳有楽・空気頭 (講談社文芸文庫) プレーンソング (中公文庫) 友は野末に: 九つの短篇

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参考レビュー

「物語」に抗して

詳細をおぼえていないがいやな感じのする船上の記憶。読者が言葉にならない何かをうけとれるのは、著者のこうした姿勢があってのことではないだろうか。

暗い時代の個人的な経験を、いったりきたりしながら、近い距離で小さな声で聞かせてくれているような作品。戦時下、暗闇の中の父が始めた小さな教会では、ポロポロと祈る小さな集まりがひらかれる。

友人のはなしてくれた戦争中のことを「物語」にしてしまったことに著者は恥入り、そのことが全編を貫く問題意識となっている。

戦争での経験は、行軍中にこびりつく排泄物とすてたくなるほど重い荷物。次々に死んでいくなかまたちと同期の兵士の打ち明け話。

なにかをおもいかえし、記録しようとすると、もう物語がはじまってしまう」とたえず困難を感じながらも。「しかし、物語はなまやさしい相手ではない。

ブンガクの存在理由

そういえば昔、「巨泉のクイズダービー」に出ていたコミさんが、正解を当てて賞金が増えて、儲かったときに「きー」と禿げた頭をかきむしっていたのを思い出す。

好きな作家は?と女の子に聞かれて、最近なら田中小実昌、と答えたらがっかりされた。つまり、「好きな作家」に対する答えとしては「反則」なのがコミさんなのである。

実際、「好き」なのか、と言われると、自分でも首をかしげるか、「きー」と頭をかきむしりたくなるのだけど。なぜなら、ブンガクとか小説とかの一つとしてあるのではなくて、「ポロポロ」はもう「ポロポロ」でしかないからで、しかも、こういうものがあるためにブンガクなんてものがある、と言うしかないような小説なのである。