辻仁成

海峡の光

廃航せまる青函連絡船の客室係を辞め、函館で刑務所看守の職を得た私の前に、あいつは現れた。少年の日、優等生の仮面の下で、残酷に私を苦しめ続けたあい つが。傷害罪で銀行員の将来を棒にふった受刑者となって。

そして今、監視する私と監視されるあいつは、船舶訓練の実習に出るところだ。光を食べて黒々とう ねる、生命体のような海へ…。海峡に揺らめく人生の暗流。芥川賞受賞。

海峡の光 (新潮文庫)海峡の光 (新潮文庫)
辻 仁成

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参考レビュー

失ったものへの痛みと満たされない思い

皮肉な出会いに再び小学生だった頃の記憶が蘇る。利便性や時間というものだけが追求される現代という社会においては仕方ないことなのかもしれない。

優等生であった花井と花井によっていじめられる羽目になった斉藤。そして過去のトラウマとの葛藤の中で花井の中に潜んでいた満たされない思いと歪んだ心が露わになってくるのだった。

北海道に住んでいた者であるならば当時の出来事を今でも覚えていることだろう。その時間軸とはまったく別のところで、函館少年刑務所の受刑者たちは船舶訓練の実習に明け暮れていた。二人はかつての級友であったが今とお互いの立場は違っていた。

昔、連絡船の客室係をしていた看守の斉藤とそこにやってきた受刑者である花井。それでも失ったものへの痛みは強く、何かの終焉を迎えたような気になったものだ。古きものはいつかは失われ、新しいものへ取って代わる。

あのなんとも言えない感覚、筆舌に尽くしがたい思いというのを・・・。青函連絡船の廃航が間近に控えた函館の町。

圧倒されて一気に読んだ!すごいの一言

すぐに作品世界に引き込まれ、一気に読んでしまい、感嘆した。花井に対する少年時代からの心の葛藤が丹念に描かれていく。

花井という人物がなぜそのような人格を持っているのか、と言うところは、読者の想像に委ねられているだけで、明らかにはされていないのが、残念なような、あるいは、だから、強く心に残ることになるのかもしれない……。

青函連絡船の乗務員だった主人公・私(斉藤)が、連絡船の廃航を見越して、いち早く船を下り、函館の少年刑務所の看守になり、船舶訓練教室の副担当官になった経緯と、そこに現れた受刑者が、小学生の頃、私を執拗に苛めていた花井修であり、訓練のために海峡に出るという、場面展開など、作品世界に一気に引きずり込まれる。

小説の舞台設定にまず心を引かれる。読まず嫌いというか、今回はじめて辻仁成の作品を読んだ。

今まで読んでなかったことが口惜しい。