辻内智貴

青空のルーレット

青い空に浮かんで、俺達はビルの窓を拭く―メシを喰うために、家賃を払うために。けれど俺達はそれぞれやりたいことを別に持っている。音楽、芝居、写真、 マンガ…。

だから、俺達が窓を拭いているのは、夢を見続けるためなのだ!熱く純なハートを持つ男達の夢と友情を感動的に描いた表題作。ほかに、第十六回太 宰治賞受賞作「多輝子ちゃん」を収録する。

青空のルーレット (光文社文庫)青空のルーレット (光文社文庫)
辻内 智貴

セイジ (光文社文庫) 信さん (小学館文庫) 僕はただ青空の下で人生の話をしたいだけ (祥伝社文庫) 野の風 (小学館文庫) しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

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参考レビュー

いい作家が、また一人。

作家として手っ取り早く注目を集めるなら他の賞を狙った方がいいんじゃないだろうかと思うのに、あえて太宰賞。そんな思い、伝わりますでしょうか。そんな作品集です。そう思ったのかなあ。

では辻内氏のこの最初の作品集には、「太宰賞は、また一人、本物の、とても素敵な小説を書く作家を世に送り出してくれた。

乙川優三郎のデビュー作の本の解説に、「時代小説大賞は良い作家を一人世に送り出した。こんないい作品なんだから、そんなのいいじゃない。

きっと寅さんが好きなこの作者。ちょっと出来過ぎかなというところが所収2作のどちらにもあるんですが、それは気にしないでおこう、そう思えました。成功よりも、この賞で世に出たい。

「多輝子ちゃん」もいいですよ。でも、この人だったらそうかもね。だとしたら、いいなあ、それって・・・。でも、ちゃんと人間を深く見つめ、そして、・・・深く愛している。

あったかい物語が書きたいという、とてもシンプルなこだわり。心に染みる作品が二つ。

受賞しても、作品発表はムックの形で、月間文芸誌が継続的な作品発表の場を準備してくれそうにもない、太宰賞。勝手にそんな想像をして、嬉しくなってしまったりする。太宰賞を取ってデビューすることになったこの作品。

窓ふき業界のリアルな描写

読み進めるほどに、「そうそう!」と声を上げたくなった。端から見るほど危険な作業ではないこと、実質労働時間が少ないこと、元請けと下請けの関係、ロープ作業で使用する「シャックル」のセット方法などなど…。

10年以上前に、私もこの作品の舞台となっている「ビルのガラス清掃」のアルバイトをしていた。当時を懐かしく思い出させてくれた好著に感謝。

その経験にてらしても、本作品内でのガラス清掃に関する描写は極めて正確かつ詳細だった。

私のつとめていた会社には、夢を追っているような人はそれほど多くはいませんでした。

その一方で登場人物たちは少々、格好良すぎるというか夢がありすぎるというか、まあそれほどリアルではないのだが、恐らく著者のつとめていたガラス清掃会社には、登場人物たちのような人々もいたんでしょうね。