吉野源三郎

君たちはどう生きるか

著者がコペル君の精神的成長に託して語り伝えようとしたものは何か。それは、人生いかに生くべきか問うとき、常にその問いが社会科学的認識とは何かという 問題と切り離すことなく問わなければならぬ、というメッセージがあった。

著者の没後追悼の意をこめて書かれた「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想」 (丸山真男)を付載。

君たちはどう生きるか (岩波文庫)君たちはどう生きるか (岩波文庫)
吉野 源三郎

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参考レビュー

誰にとっても必読の良書

中身をよく見ずに買ってしまった俺は、はじめ内容が中学生向けに書かれたものであったことに失望した。

決して気取ったような固い漢語を列挙することなく、平易な言葉で、一中学生男子の身近な事件から得た発見、それを通じての彼の精神的また教養的な成長を描いている。自分も読もうかとためらっている方は、まずこの回想を読むことを勧める。

大学生の読むものではないと見くびっていた俺がとうとう読むことを決めたのは、この回想のおかげだ。そう断言できる、類まれなる不朽の名作である。

それをこうして見届けるだけで、どこかほのぼのとした温かい雰囲気に浸りながらも、大学生である俺も戒めや再発見を促される結果となった。

すぐ打ちやってしまおうかと思ったが、最後に「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想」と題して丸山真男が文章を載せていたから、とりあえずそれくらいは読んでおこうかと思ってページをめくった。非常に満足している。

これは、中学生はもとより誰にとっても必読の良書だ。

文体もいかにも中学生くらいに向けて書かれたもので、内容も単なる簡単な道徳を説いたものにすぎないのだろうと侮っていた。

人生の宝物

1936年に執筆を開始されたこの本。義務で多く目を通すが、手元に置いて何度も読み返そうと思う本はごくわずかだ。この本は、それらの自己啓発書とは、根本的なところで全く違う視座を持っている。

自分が自分を好きでいて、幸福になるのはもちろんだけれど、それを超えたところで、自分とつながっている、この世界の多くの人を、良くしたい、幸せにしたいという思い。

現代も、この本で書かれている人生の「原則」が、手を変え品を変え、さまざまな筆者から書きだされている。特に自己啓発書と呼ばれる分野にも、同じ真理が書かれ、それを教え諭す本は多くある。

ひとりひとりが、人生を生きていくうえで、おぼろげながら感じている不思議さや、疑問、悩み、あるいは楽しみに、しっかりと形を与え、易しい言葉で簡潔にあらわし、真理をむきだしにしているこの本は、名著中の名著だと思う。

それは、国全体で戦争へ進んでいったこの時代に、たったひとりひとりの人間が、「みんなが幸せになるためには」と必死に考えた、実利的なものを含まないあたたかい愛が、作品のあちこちににじみでているところだ。

「コペル君」というかわいい少年の日常を通して、青少年から読めるように工夫された易しい文体で、筆者は心から、私たちに大切な真理を教えてくれている。

地味な表紙に臆せず、できるだけたくさんの人の手にこの本を届けたい、紹介したい、と心から思える本でした。

実利的な利益を、自分にもたらすためにはどう行動したらいいかというノウハウ本が売れ、「勝ち組」「負け組」と格差が開き、自分が負け組にならないように、時代をサバイバルする知恵がうけているように思う。

しかし、この本に偶然に出会い、一読した後、自分の人生の宝物になることがはっきりと分かった。しかし、金銭や名誉などの利益を求めた自己実現や、厳しい競争を勝ち抜く喜びに、それほど魅力を感じない私には、少し違和感がある。

今は、個人主義が振興し、ひとりひとりが「自分がよくなる」「自分が成功する」という視点から書かれたものが多くあるように感じる。

仕事柄、たくさんの本を扱う。そういうものを読んでも、それなりに感心することはあるけれど、しかしこの本で得た感動には、到底及ばない。それから、80年近く経った今も、これほどまでに心に沁みわたる。